【僕を君にあげるから、君を僕にちょうだい。】
――なんて言えるほど、僕と君は甘い関係ではなかったね。
ベネット、ベネディクト、僕の歪な生に終わりをくれる人。
君のその手に僕が握られて、君のその口が僕で満たされる。
その至福の日の為に、僕はこの言葉を胸に仕舞っておくよ。
君は優しいから、僕の裡を知れば僕を殺せなくなるだろう?
だからこれは永遠に、君の知らない、僕だけの愛の言葉だ。
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【神様、どうか。】
最高の最期をくれた彼にも、最高の最期がありますように。
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僕の被食願望はもう随分と昔、子供の頃からずっとあって。
誰かに話すこともできずに、時間だけがただ過ぎていった。
あの日、あの匿名掲示板で、君の書き込みに出会うまでは。
嬉しかったよ、僕の歪な願望を君は否定せず聞いてくれた。
僕のことをどんな細かいことでも理解しようとしてくれた。
誰かを食べたいんじゃなくて僕を食べたいんだって、君は。
いつもいつも僕の為にそんな優しい嘘を吐いてくれたよね。
君は嘘がとても下手だったよね、僕はすぐに気がついたよ。
君が僕を知ろうとしてくれたように僕も君のことを知った。
だから気づいたんだ、君に人食いの趣味が無いってことも。
君が興味本位でした投稿を、今は後悔しているってことも。
本当は、君が僕のことをただ好いてくれているってことも。
君の本心を知りながら、それでも黙っていたのは僕の我儘。
君のその手に僕が握られて、君のその口が僕で満たされる。
そんな幻想に取り憑かれた僕は僕を止められなかったんだ。
カメラの前では平気な顔をして、にこにこ笑っていた君が。
ナイフ片手にカメラに背を向け、座る僕を見下ろしたとき。
君がどんな顔をしていたのか、君自身は知らないんだろう?
それでいいんだ、僕だけが、君の表情を覚えていればいい。
死の間際になって過ぎったこの気持ちは何と言うのだっけ。
【それがどんな感情だったか、今では忘れてしまった。】
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