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IoMが降り立つ戦場(通称邪気6)村月読の何かみたいな。
時間軸としては、10d墓下で落とした兄上(天照/ヤンファ)への返事の…一部?
とりあえず簡単に説明すると、
弟(月読/ラルフ)の嫉妬心から世界巻き込んだ兄弟喧嘩が勃発。
↓
主に弟からの一方的な攻撃による殺し合いになるも、
兄上「我らはどちらも死してはならん。時が来るまで眠りにつこう」
で、兄が喧嘩をやめることを提案。自分の身体と引き換えに月読も眠らせようとする。
↓
弟「今更何言っちゃってるの、仲直りなんてできるわけが……うう、眠い、……でも、兄上と一緒に寝るなんて真っ平ごめんだ!」
と最後にしょうもないプライド(ツンとも言う)を発動して馬召還して逃げる
↓
…この話は、此処の時間軸の話になります。
ツンヤン月読オンステージなので注意(今更)
……ひたすらソロールなんで村に落とすのが恥ずかしかったんだよ!!!!(脱兎
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[月蝕]
「――は…、……っ…」
尖塔から脱出し走る愛馬の上、胸をかきむしるように押さえながら月読は呻いていた。
兄の光の力に逆らえる程の闇の力はもう残っていない。
襲いくる仮初の眠りから逃れるためのほんの僅かな時間が残されただけだった。
「も、…いい、降ろせ鶴斑…………」
川の畔で転がるように馬から降りる。
本当に此処で好いのかと、馬は問うように月読を見たが、月読は答えなかった。
そこは優しい光に包まれた尖塔を一望できる場所。
母が「うつくしいまほろば」と喩えた黄泉津の中でも、際立って景色の好い場所であった。
そこに月読は座り込む。
座り込むというよりは倒れこむという形だったので、慌てて馬が身を屈ませ背凭れの代わりになった。
「……嗚呼。すまな、い……」
尖塔を包むようにして開いていた真世界への扉も鎖され、今はもう無い。
生身の人間は扉がなければ黄泉津には出ることも入ることもできない。
攻撃に行かせた己の影が最終的にどうなったのか月読には解らなかったが、一人くらい巻き添えにこの黄泉津に縛り付けておけたのではないか――そんな気がした。
(――しかし、鏡斎王は取り逃したか。……光が衰えないところをみると、まだ鏡と鏡斎王は生きているな…。
……ふ、くく。あの琥珀が天照を守れなかった悔しさに歪む所を見て、みたか………)
「…………」
漆黒が、揺れる。
見上げれば、黄泉津に相応しくないうつくしく光溢れた空があった。
――が、それも重くなる瞼に遮られ、段々と暗い眠りの世界に引き込まれていく。
(……虚しい、な……。………豊受姫は三度殺した。…兄上を鎖して、相討ちとはいえ…眠らせ、た……。
僕の……願いは、……… これが……僕の望んだ、……永遠の、安寧(やみ)……?)
――違う。
月読が望んだ永遠の安寧とは、怒りも、悲しみも、喜びも、何も無い、何にも煩わされない、ただ己がそこに存在することを許された世界。
何も無いが故の虚しさは覚悟していたが、今胸にある虚しさは、どこか悲しさも帯びていた。
それは無視できない程に大きい。
(……矢張り、間違いだったのだろうか。……嗚呼…でも。あの怒り、あの悲しみ……。
僕は二人を殺める以外に、それから逃れる手段が思いつかなかった…………)
結局、どうするのが正しかったのか。
それは眠りの迫る今でもわからない。
ただ、壊すことが正しいのだと。それが己の取るべき道だと思っていた。
元々のきっかけが弟であったことや、母からの命などは些細なこと。
そうすると決めたのは月読自身だったのだから。
(…………弱さ……)
――教えてやるよ月読。俺を殺してもお前の心は満たされない。お前が弱さを乗り越えない限り、お前に安寧など、訪れはしない。
兄は、そう言った。
今更ながらにその意味を考える。
(――…僕は…、…………僕は ……どうすれば、……"弱い自分"に勝てた、の、 ――……)
身体の自由が利かなくなり、意識が遠ざかっていく。
太陽に照らされる昼月が無力である以上に、太陽に照らされざる月も無力である。
天照が眠りについた今、月読もこの眠りからは逃れられない。
クレプシドラの残滓も落ち切って、世界が静止する。
再び世界が蒼《SIGNAL-BLUE》によって目覚めさせられるまで――。
(…………つぎに …めざめた とき…… は
よわさ を ……のりこえ られ だろう か……
また ともに
わら え ひが
…に う ……え)
月読が横に倒れて地面につく瞬間。身体は闇の霧へと姿を変え、辺り一面を覆う。
それは怒りや憎しみに満《お》ちた底の見えない深淵の闇ではなく、
ほんの少しだけ蒼色を帯びた、紺に近い夜闇。
光帯びた塔に近いところは、まるで夜明けのような美しい色彩を描いていた。
そしてその闇の霧も、徐々に薄まっていく。
黄泉の川の畔、残されたのは主の次の命令を待ち続ける鶴斑と、彼の影で太陽の光を受け輝く三日月宗近。
ただ、それだけ――…。
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