てんごくにいるおとうさんとおかあさんへ。
おげんきですか、わたしはげんきです。
きょうは、わたしのパパとぱぱのことをかきたいとおもいます。


パパとぱぱとわたしは5ねんくらいまえからいっしょにくらしています。
パパはせがたかくて、ぱぱはパパよりちいさいです。
パパはきんいろのかみで、ぱぱはちゃいろのかみです。
パパとぱぱは、パパのほうが4つとしうえです。


パパはとってもやさしいです。
ぱぱもとってもやさしいです。
パパはしんぶんやニュースをよくみていて、とてもものしりです。
わたしはいろんなことをパパからきいておぼえます。
ぱぱはよくこうちゃをいれてくれます。
わたしはぱぱのいれてくれるこうちゃがだいすきです。


でもどうしてパパとぱぱなんだろう。
わたしはふしぎです。
てんごくのおとうさんとおかあさんはおとうさんとおかあさんだし、レティにもパパとママがいます。ほかのこにもみんなパパとママがいます。
こんどパパとぱぱにきいてみたいとおもいます。


ケイト




[パパとぱぱ]




「――え?」
「どうしてパパとぱぱなの?ママはいないの?」
「えー…っと……」

二人の男は困ったように顔を見合わせた。
その片方、年上の"パパ"は「ついにこの日が来たか」みたいな顔をして。
もう片方、年下の"ぱぱ"は「どう説明したらいいんだ」なんて顔をした。

自分たちがただの同居人ではなく、恋人同士の関係にもあることは、この幼い娘を引き取った日からいつか話さなければいけないと思っていた。
もしかしたら、大きくなるうちに察してくれるかもしれなかったが――そうはいかなかったようだ。

「…ええと、だ。……そのー…フィル?」
「え?僕?テッドの口から言ってよ」
「いやあだってほら、ケイトにモノ教えんのはフィルのが得意だろ」
「テッドのほうがケイトに懐かれてるじゃない。…どう説明したらいいか、わかんないよ僕は」
「俺もわかんないって。………。…ええと」

こういう時、だいたい先に折れるのは"ぱぱ"のほうだった。
たまに"パパ"が折れるが、一体どういう基準でそうなっているのかはまだ幼い娘にはわからない。


「…ぱぱはな、パパのことがすきなんだ」


ド直球すぎる説明に"パパ"が紅茶を噴いた。
が、もちろん伝わらなかったらしく、娘は首を傾げた。

「わたしもパパのことすきよ?ぱぱのことも」
「うん。俺もケイトのことすきだよ。…でも、それとはちょっと違う感じで、ぱぱはパパのことがすきなんだ」
「どう違うの?」
「ちょ……テッド……」

紅茶零しちゃったじゃないか、と言いながらテーブルの上を拭う"パパ"の頬は薄らと赤く染まっていた。
ああ、ごめん、と言いながら"ぱぱ"が片付けを手伝う。幼い娘はそれをじーっと見ていた。

「…パパは、ぱぱのことすき?」
「………う」
「すき?」
「テッドまで!!もう!」

ティッシュをぽいっとゴミ箱にストライクして。
更に赤くなった頬で"パパ"が言った。

「…すきだよ」
「どれくらい?」
「…テッド、ちょっと面白がってるでしょ」
「だって、聞きたい。最近あんまり言ってくれなかったから」
「そりゃお互い忙しいし、ケイトだっているんだから……」
「…………だめ?」
「………その聞き方は卑怯だよ…」

"ぱぱ"が"パパ"を丸い瞳で見上げる。
幼い娘には、それが幼い子どものような仕草に見えて、とても意外だった。
普段の"ぱぱ"は、"パパ"ほどではないが大人で、しっかり者なのに。

「…。…世界で一番すき。だいすき。…愛してる」
「ほんと?」
「ほんとだよ。嘘でこんな恥ずかしいこと言えないってば」
「やった、嬉しい!」

"ぱぱ"が"パパ"に抱きつく。"パパ"はそれを受け止めて、"ぱぱ"の頭を撫でた。

「俺もだいすき!世界で一番…愛してる」
「……もう」
「へへっ」
「…ん。……ま、あ、つまり…。僕にはテッドがいるからママはいらないの」
「そうそう。俺にもフィルがいるから、ママはいらない」
「…だから、ママがいなくて…両方"パパ"なの?」
『そう』

幼い娘はそれを理解したのかしていないのか。
何度か頷いていたが、おそらく彼女が完全に理解するまでにはもう少し、彼女が恋とか愛とかというものを理解するまで時間が掛かるかもしれなかった。
ちら、と"パパ"が時計を見て、言う。

「ほら、もう21時だよ。ケイトは寝なくちゃ」
「はーい」
「ん。じゃあ俺も」
「テッドはもうちょっと起きててね。片付けと、それから…」

"パパ"が目配せすれば、"ぱぱ"が一瞬きょとんとした顔をして。
それから、"パパ"と同じくらいにまで頬を赤く染めた。

「…ん。……えっと、ケイト。今日は一人で寝れるか?」
「うん。びりびりうさぎのぬいぐるみあるから寂しくないよ」
「そっか、いい子だ」

"ぱぱ"と"パパ"がそれぞれ娘の頭を撫でて、それから、娘を部屋に返した。
娘が自室に戻ったことを確認すると、"パパ"が"ぱぱ"の頬をつん、とつついた。

「…ケイトの前であんな恥ずかしいこと言わせないでよね」
「だって、…折角だし」
「もう。……二人きりの時ならいくらでも言ってあげるのに。…愛してるよ、テッド」
「うん、俺も愛してる。…ね、今夜は久しぶりに…」


わかってるよ。
"パパ"から返事代わりに額に落とされたキスに"ぱぱ"ははにかんで。

そして静かに、唇を重ねた。











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