「ヨア」
「何?」
「今日は僕、自分の家に戻るよ。もう襲撃されたりしないしね」
「あ…うん」

宿を出た帰り道、オットーが僕にそう言った。

「…それとも、また今日もしたい?」
「い…いい!!あれ結構疲れる!!」
「ふふ。…うん、そうだね。今日はゆっくり休もうか」

じゃあね、とオットーが手を振る。
僕も手を振り返して。
久々に、ぐっすりと眠った。











翌朝、宿に向かう。
「おはよう、…あれ、…ジムゾン…は?」
そこにいたのはニコラスとオットー。
「ああ、さっき会ったよ。お墓参りに行くって。今まで皆をろくに弔ってやれなかったから…ってさ。それが終わったら一週間手入れを放置しまくった花壇を整えて、それからヤコブの畑とカタリナの羊をどうしようって…」
「と…いうことは、生きてるんだね?」
「ああ」
オットーがにこ、と微笑んで言った。


「ニコラスは災難だったね。旅の途中でこんなことに巻き込まれて」
「いえ…。…寧ろ、私は余所者ということで真っ先に処刑されるのではと怯えていました。ここまで生き残れたのはあなたのお陰です。本当にありがとうございます」
「違うよ。僕が生き残ってニコラスの占い結果を出せたのは…ヨアヒムのお陰」
「ああ、狩人さんでしたね。…本当にありがとうございました」
「ううん、こちらこそ。赤の他人なのに村のために真剣に戦ってくれてありがとう」
ニコラスと握手を交わす。
ニコラスは優しく微笑んで、それでは私はまた旅の続きに参ります、と言った。


「本当は神父様ともお別れの挨拶をしたかったのですが…神父様は忙しいでしょうからね。邪魔してはいけませんね」
「元気でね、ニコラス」
「ええ。またいつかお会いしましょう」

村を出ていくニコラスに2人で別れを告げて。
「さ、僕もお墓に行ってくるよ。実を言うと今まで一度もお墓参りしてなかったんだ…皆怒るかなあ」
「そんなことはないよ、きっと」
「そうかなぁ。オットーも一緒に来る?」
「んー、僕は家に戻ってパン焼こうと思うんだ。ほら、チーズパン。約束したでしょ?」
「あ、そっか!」
「それじゃ、また後でね」


オットーも僕に手を振って、家へと戻っていく。
僕は村はずれに作った墓地に向かった。
護れなかった皆に会うのがなんとなく怖くて、フリーデルもパメラも偽者ってわかってるのに…なんだか申し訳なくて、ずっと行けなかった場所。


ばさばさ、と羽音を立てて僕の頭上をカラスが飛んでいった。
僕が向かうのと同じ方へ。
なんとなく、後を追った。


やがてカラスが羽ばたきをやめ、急降下する。
降りるカラスと一緒に僕も視線を空から地面へと下ろす。






「…………え?」






そこには、―――カラスに残った肉を啄ばまれている…ジムゾンが、いた。





「っ、ジムゾ…ジムゾン!?」

カラスの群れを追い払って、ジムゾンに近づく。
血は完全に乾いていて、死んでから大分経っているみたいだった。
そしてカラスにもあちこち食い荒らされていてわかりにくいけれど…確かに、人狼の爪痕が残っていた。


「嘘…だ、なんで…」


だって、ジムゾンは。
お墓参りを終えたら花壇の手入れをして…。それから…。

「なんで…?」


混乱する。
…エルナは狼じゃなかった?
ひょっとしてニコラスが人狼?




いや……違う。



嘘を吐いているのは…いたのは……。



――さっき会ったよ。


――お墓参りに行くって。







「嘘だ…!!」



バサバサ、と喧しい音を立てて再びカラスが舞い戻ってくる。




僕は、その場から逃げるように走り出した。












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