「―――ん…」
ふっと、目が覚めた。
窓から陽が差し込んでいる。…朝……?
「おはよう、ヨアヒム」
「わっ!?」
後ろから囁かれた声に驚いて振り向くと、オットーが…いて。
……ああ、そういえば。と全部思い出す。
「お…おはよう…」
よくよく気づけば、後ろから抱きしめられていた。
「ヨアヒムって結構寝相悪いんだね」
「え…」
「だって、最初は向かい合って寝てたはずなのに、いつの間にか反対向いてるんだもん」
「そ…そうだった…っけ?」
「そうだったよ」
オットーが、不意にへらっ、とだらしのない笑顔を見せる。
「…イった直後が一番可愛かったなあ、半泣きになりながらさ、何度も名前呼んでくれて…キスしたいって腕伸ばして、僕にずーっとしがみついてて…」
「っ!!…お、覚えてないよ!?そんなの!!」
「本当に?」
「……ゴメンナサイ、嘘吐きました」
いや、…いやでもさ。
覚えてたとしても、ああうんそうだったそうだったなんて素直に相槌打てるほど僕に羞恥心ってものがないわけじゃないんだ…!!
「…さて。…行かなきゃね」
「あ……うん」
「…パメラが人狼であればいいんだけど。それなら、全部終わりだ…」
シャワーを浴びて、一緒に家を出た。
「オットーお兄ちゃん、ヨアヒムお兄ちゃん…おはようなの」
宿につくと、リーザが僕たちを見上げて言った。
「おはようリーザ。…ペーターは?」
「…………ペーター死んじゃったの。人狼に食べられちゃったの」
くら、と世界が揺らいだ気がした。
人狼は3匹。フリーデル、ヴァルター、パメラ。
それで終わりのはずじゃ…!?
「パメラは人間だったさね…。あれが狂人っていうのなのかねぇ…」
「正直、パメラの涙が嘘とは思えないのですが…」
「はん、これだから男ってのはイヤだねぇ。若い女の涙にすぐ騙される」
「レジーナ…抑えてください」
「だってこのままいったら今日はアタシ処刑だろう!?まだ死にたくないよ、アタシは!」
「まだ決まったわけじゃないんですから…落ち着いて。ええと、オットー、リーザの占い結果は?」
「リーザ?…ああ、リーザは人間だったよ」
「成程。では、こうなりますね」
【_|者神|楽樵|旅年|青|屋修娘宿|羊農村|女仕
正体|共共|??|??|狩|占占霊霊|???|??
死亡|襲_|襲襲|_襲|_|_処処_|処処処|__
屋占|__|_人|人人|_|____|人_狼|人_
修占|__|_人|__|_|____|狼_人|__
娘霊|__|__|__|_|_人__|狼人人|__
宿霊|__|__|__|_|_狼人_|人人狼|__ 】
「…待ってよ」
表とじっと睨めっこをした後そう言ったのは、エルナだった。
「ねえオットー?リーザの占い結果が人間って一体どういうこと?」
「どう、と言われても」
「オットーが本物の占い師なら、それと反対の霊視をしたパメラは偽者、つまりレジーナが本物の霊能者よね?」
「そういうことになるね」
「レジーナが狼だと言ったのはフリーデルと村長。ということはよ?まだ立場が灰色なのは私だけ…」
「そう、消去法でエルナが人狼だね」
「ふざけないで!!」
ガンッ、と荒々しくエルナがテーブルを叩く。
「オットー、嘘を吐いたわね!?」
「嘘?…ついてないよ。リーザは間違いなく人間だ」
「…………っ!!」
「…オットーお兄ちゃんを信じるなら、今日エルナお姉ちゃんを処刑すればおしまいなの」
「終わらなかったらどうするのよ!!」
「そのときは、またもう1人処刑すればいいの」
「…リーザ」
「……ええと、皆さん。…ヨアヒムが狼であるかもしれないという可能性を忘れていませんか。オットーも、エルナも」
「…あ、そういえばその可能性もあったわね…」
「ジムゾン、その可能性は低いと思います。ディーターが言っていたじゃないですか。2日連続で食事を我慢する必要などない、と」
「いや、1日目は狩人に邪魔されて、ヤコブが処刑された日には我慢したとか…」
「でもリーザ、ヨアヒムお兄ちゃんが狼には見えないの」
喧々囂々、纏まらない議論。
「まずいですね、時間になっても誰の票も揃いません…」
残り7人、人狼は多くて2匹。
僕が狼だと思う人が1人、オットーだと思う人が1人、レジーナだと思う人が1人、エルナだと思う人が1人、ニコラスだと思う人、リーザだと思う人…。
見事にバラバラだった。
夜明けは近づいている。このままでは、いたずらに犠牲者を1人出すだけになってしまう…皆が焦っていたその時、レジーナがそっと手を上げた。
「…わかったよ、判断に困るようなら皆、アタシを処刑するといいさね」
「レジーナ…!?」
「アタシは…こういっちゃなんだが、もう人狼を2人見つけているから…。…3人目の人狼を処刑できたときは即ち、村の勝利さね。…だからアタシは、もう用済み」
「レジーナ、本気で言っているのか?」
「えぇ。…アタシは皆みたいに知恵が回るわけじゃないからねぇ…。そしてアタシが生きていることで皆を混乱させちまうなら、いっそ処刑しておくれよ」
「そんな…レジーナおばちゃん…」
「…わかりました」
ジムゾンが疲れたように溜息を吐いた。
「今日はレジーナを処刑しましょう」
誰も、何も言えなかった。
反対するだけの要素を誰も持っていなかった。
ただ、レジーナが死の間際に浮かべた微笑が、皆にレジーナは人間だった、という確信を残しただけで………。
翌日、リーザの遺体が見つかった。
「…まだ、人狼は生きているようですね」
ジムゾンが深く溜息を吐く。
「生きているのは、私とニコラス、オットー、ヨアヒム、エルナ…」
「…………」
「オットーを信じるなら、エルナを処刑でしょうね」
「……………」
「オットーを信じないなら、今日はオットーを処刑して、明日があれば…残った方々にまた考えてもらうしか」
「…僕はオットーを信じる」
僕はそう宣言した。
「僕の目から見て、狼はエルナ以外にありえない」
「ですよね…。…しかし、ヨアヒムは少しオットー真寄りに偏りすぎていませんか?」
「わかった。仮にオットーが狼だとしようか。そうしたらまず、僕がオットーを護衛した日に襲撃が起こらなかったことが説明つかない。前日も狼は何も食べていないのに、わざわざ偽装する意味は一体何?」
「………」
「じゃあ次にオットーが狂人だとするよ。そうするとフリーデル、パメラが本物、レジーナが狼だよね?フリーデルたちが見つけた人狼はカタリナ。そしてレジーナも人狼。残り1人。ニコラスかエルナのどちらかだけど…。…はっきり言うよ、エルナのほうが怪しい」
それに、と僕は付け加える。
「レジーナが狼だったら、昨日自分を処刑してくれなんて言うかな?」
「………」
「寧ろ議論を誘導して他の人を処刑させたほうがよかったと思うんだけど、違う?」
「それは…」
「…念のために昨日ヨアヒムを占ったけど、ヨアヒムは人間だったよ。つまり、狼はもうエルナしかいない」
「オットー…!!」
「ニコラスは、どう思います?」
「…そう、ですね。迷ってはいますが…私もエルナさんを処刑すれば、終わるかと」
「………っ…」
「決まり、ですね」
ぱん、と本を閉じて、ジムゾンが告げる。
「エルナ、今日は貴女を処刑します」
「覚えておきなさい…!!」
エルナは僕とオットーを、強く睨んでいた。
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