翌日、ディーターの遺体が見つかった。
「ディーターさんが襲撃されてしまいました…か…。…私は、ディーターさんの相方共有者です。ディーターさんの代わりにこれから皆さんを率いていきたいと思います」
集会所に現れるなりそう発言したのはジムゾンだった。
「異議のある方はいますか?」
「俺はない」
「私も」
「では…私は共有者確定でいいですね。それではオットー、ニコラスさんの占い結果を」
皆議論に慣れてきたのか、はたまた単に疲れてきただけなのか、初日と比べるといくらか淡々と議論は続く。
ニコラスの占い結果は人間。
そして、パメラとレジーナの霊視結果は…また、割れた。
「整理しましょう。シスターとパメラ、オットーとレジーナが…こう言ってしまうと何ですが、『同陣営』ですね」
「それで合ってます」
「シスターとパメラが本物の占い師と霊能者の組み合わせであれば、シスター、パメラは当然として、ヤコブ、トーマス、村長が人間。カタリナ、オットー、レジーナが人狼」
「そうよ。オットーとレジーナを処刑すればこんな悲劇も終わるわ」
「対してオットーとレジーナが本物であれば…オットー、レジーナ、カタリナ、ヤコブ、トーマスが人間、ヴァルター、フリーデル、パメラが人狼…ですか」
「そういうことだわね」
「…しかし、こんな話もあります。…人間でありながら狼に協力し…果てには、人狼同士の会話にすら参加できる者……狂人、という存在もまた村に存在する可能性があると」
つまりですよ、とジムゾンが一呼吸おく。
「占い師や霊能者を名乗る者の中に狂人がいる可能性は高い。…ヨアヒムさん」
「えっ?」
いきなり呼ばれて顔を上げた。
「貴方は確かにオットーを護衛したのでしょう。…しかし、それだけではオットーが人間であるという証明ができても、オットーが本物の占い師であるという証明にはならない。…どうでしょうか」
「……………オットーが、その…狂人だって言うの!?」
「その可能性がある、と言っているだけです」
「んー、でもさ」
エルナが口を挟む。
「仮にオットーが狂人だとしたら、狼にはそれがわかってるんじゃないかしら?だってオットーが狂人ならフリーデルが本物なんでしょう?本物の占い師が人狼と言ったカタリナを、オットーは人間って言ったんだから」
「…そうですね」
「自分たちに味方してくれてる人間を食べるって、狼にとって何かメリットあるの?」
「……………それは…」
「………」
「ヨアヒムが本物の狩人で、オットーが人間なら、オットーは本物。違う?」
「…………」
「…皆さんは、どうお考えですか」
「…俺は…オットーは偽者だと思う。でも、ヤコブも人間だったし…何より、ヨアヒムが嘘を吐いているようには見えない」
トーマスが溜息混じりに僕とオットーを交互に見る。
「リーザは…よくわからないの。でも、やっぱり…ちょっと前に村に来たフリーデルお姉ちゃんより、ずっとこの村にいる、オットーお兄ちゃんを信じたいの」
「私はオットーを信じるよ。村長とパメラを処刑すればこの悪夢も終わるって信じてる」
「皆!!お願い騙されないで!オットーとレジーナは偽者なのっ!!村長だって人狼なわけがないわ…!!」
「そうだ、皆、私が人狼?そんなわけないだろう、私はこの村の村長だぞ?」
「……………」
誰が言い出したのか。
「今日は村長を処刑しよう」
村長は必死に弁解していた。
でも、その話には矛盾も多く…そして、初日にカタリナと同じく夜中に出かけていたことが判明したのが決定打になった。
処刑が決まり、僕はオットーと家に帰る。
ただ僕は出かける準備をしていた。
「…ヨアヒム?」
「多分人狼は、僕がずっとオットーを護衛してると思いこんでる。その隙を狙ってもう一度襲撃を阻止してみせるよ」
「…!」
「…大丈夫。オットーがここにいることはバレてないはずだから」
「そうじゃなくて…、ヨアヒム、下手に出歩いて人狼に見つかったらヨアヒムが…!」
「平気だよ、僕………は」
ぎゅ、と…背中に伝わる温もり。
オットーに後ろから抱きしめられていた。
「………気をつけて…」
「う…うん」
ドクン、と心臓が跳ねる。…こんなにオットーと近づいたのは初めてだった。
ライフルを持って、窓から外に出る。
オットー曰く、ヨアヒムは狩人だってバレてるから堂々と玄関から表に出るのは危険だと言われた。
…さて、誰を護ろうか…。
少しだけ考えて、僕は真っ直ぐ教会に向かった。
今のところ襲撃される可能性があるのは、オットー、レジーナ、…一応パメラ、それからニコラス、トーマス、ジムゾン。
この中からオットーとレジーナを除けば、後は共有者のジムゾンが一番襲われそうな気がした。
だって…ニコラスとトーマスには「狂人かもしれない」という疑惑が残っているから。
それにニコラスとトーマス、レジーナは今頃宿屋のはずだ。そんなところに人狼も襲撃には行かないだろう、というのもあった。
―――予想は見事に外れて、翌日トーマスが遺体で見つかった。
「…………トーマスおじちゃん…」
「…ごめん…。…トーマスは、宿に皆と一緒にいるだろうから護らなくていいと…思ったんだ」
「……タイミングの悪いことにねぇ…ちょっと外の空気吸ってくるって、表に出ちまったんだよ…。…その、ほんの数分の間に襲われちまったみたいでね…」
レジーナが溜息を吐く。
ペーターは僕にしょうがないよ、って笑ってくれた。
「仕方ないことです。…さて、ペーターの占い結果と村長の霊視結果をどうぞ」
オットー、レジーナ、パメラの3人がそれぞれ結果を告げる。
それを聞いてジムゾンが紙の上に何かを書き始めた。
【_|者神|楽樵|旅年|青|屋修娘宿|羊農村|女仕
正体|共共|??|??|狩|占占霊霊|???|??
死亡|襲_|襲襲|__|_|_処__|処処処|__
屋占|__|_人|人人|_|____|人_狼|__
修占|__|_人|__|_|____|狼_人|__
娘霊|__|__|__|_|_人__|狼人人|__
宿霊|__|__|__|_|_狼__|人人狼|__ 】
「…纏めすぎていて読みにくかったら申し訳ありません」
「これが現状、ということね」
「そうです。…オットー、シスターどちらが本物であるにせよカタリナと村長を処刑した以上人狼は確実に1人処刑できています。残るは2匹」
「残りは1匹だよ、ジムゾン。後はきっとパメラさね」
「だといいんですがね」
ジムゾンが深い溜息を吐いた。
「…僕、今日はパメ姉処刑でいいと思う」
そう口にしたのはペーターだった。
「というか、ねえ、もし狂人さんって人がいなければオト兄とレジおばちゃんとパメ姉を全員処刑すれば終わると思うんだ、全部」
「……ペーター…」
パメラがペーターをそっと抱きしめる。
それは、どうしてそんなことを言うのかと咎める意味ではなく…。
こんな子供が、恐ろしいほど冷静に、『誰を殺すのが確実なのか』を計算していることを、悲しみ、嘆いたからだった。
少なくとも僕にはそう見えた。
「…ペーター…そんな怖いこと言っちゃやなの…」
リーザが小声で呟く。
だけど、リーザはその提案に反対しなかった。
リーザもわかっているのだ。
いや、皆わかっていた。
それが一番安全で、確実だと。
「じゃあ、ヨアヒムによって人間だと証明されているオットーは最後ですね」
「っ、待って!オットーも処刑するの!?」
「…正確には、ヨアヒムが嘘を吐いているとみなしてヨアヒムの処刑が先になりますが」
「…………」
「ということは、パメラかレジーナですね。…どちらを処刑しますか?」
「僕はパメ姉に1票ー」
「…俺は、レジーナに」
「パメラ」
「…パメラ」
…。
処刑は、パメラに決まった。
パメラは最後に泣き出した。
自分が信用を得られなかったためにこの村がまた1歩滅びに近づいていることを嘆いていた。
泣き止まないまま、パメラは処刑された。
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