ああ、これは何だろう神父さん。
首が絞まって苦しいのだけど。
懺悔があるか?
懺悔?
思い当たるものは特にないんだけども、ああ、そうだ。
以前ペーターの飼ってた子犬にレーズンパンを与えちゃって。
よかれと思ってやったんだけど子犬は死んじゃって。
後から知ったんだよ。
レーズンもパンも犬に与えたらまずいって。
あまりにも可愛かったから店の売れ残りをあげてたんだよ。
本当に申し訳なかったなあ。
え、違う?他に何かないか?
そうだなあ、これは結構昔の話だけど。
パメラの下着が行方不明になったことがあっただろう?
そんな目で見ないでくれよ、俺がやったんじゃない。
最後まで聞いてくれ。
実はあれは単に干していた洗濯物が風で飛ばされてしまっただけなんだけど。
俺はついついヨアヒムを責めちゃったんだよ、お前がやったんだろうって。
なんでヨアヒムか?
ヨアヒムはパメラに気があったからさ。
勿論ヨアヒムは真っ赤になりながら否定してきて、ついに口論になってね。
それからずーっと口を利かなかった。
真実が明らかになったときにはヨアヒムはもう死んでいたよ。
変な疑いをかけてごめんね。
え、ヨアヒムの話が他にないか?
神父さんも妙なことを知りたがるね、別に構わないけれど。
ヨアヒムは俺の大事な友達だったよ、弟みたいなやつだった。
いつも俺の後を引っ付いてきてさ、時にはそれが鬱陶しいと思ったこともあったけど。
なんだかんだで大切なやつだった。
ヨアヒムが女だったら、付き合っていたかもしれないね。
え?
じゃあどうしてヨアヒムに人狼判定を出したのかって?
何を言うんだ神父さん、人狼に人狼判定を出して何が悪い?
え、ニコラスについてはどうだったかって?
あの人は人間だったよ。
うん?
実際には逆だって?
まさか、そんなことあるはずないじゃないか。
だって俺は神様からの声を聞いたんだ。
ヨアヒムは人狼で、ニコラスは人間だって。
違う?
そんなはずない。
なんだい、神父さん、その目は。
聞かれたことを俺は喋っているだけなのに、どうしてそんな哀れんだような目で俺を見るんだ。
皆も。
なんでそんな目で俺を見るんだ。
首は苦しいし、皆は遠いし、なんだか変な日だ。
おや、カタリナじゃないか。
どうしたんだ、機嫌でも悪いのか。
え?
え?
今なんて言った?
聞き取れなかったよ、もう一度言って。
この人狼が?
そんな、俺が人狼なはずないじゃないか。
俺が人狼だったらこんな縄さっさと引き千切って目の前の神父さんを喰らっているよ。
俺は占い師だ。
だって神様が俺にそう言ったからね。
あ、神様の声だ。
神様の声がするよ。
え、聞こえない?
それは不幸なことだ。
俺にはよく聞こえるよ、神様の声だ。
うん、うん、うん。
そうか、そうか、うん。
神様ありがとう、やっと状況が理解できたよ。
俺は贄なんだね。
この村が平和になるための礎、神様の為に俺は死ぬんだね。
それがわかったからもういいや、神父さん。
早く俺を殺してくれよ。
神様が俺に早く死ねと言うんだ、だから早く俺を殺してくれよ、神父さん。
え、神様って誰かって?
見えないのか、それは不幸だ。
ずっとずっと俺たちと同じ村で暮らしてるというのに。
今もほら、そこから皆と一緒に俺を見てくれているのに。
神父さん、どうかした?
何をそんなに焦っているの?
え?
最後の人狼は今ここにいないトーマスとフリーデルのどちらかじゃないのかって?
占っていないから知らないよ。
神様がトーマスとフリーデルのどちらかかって?
それは答えられないんだ。
神様に堅く口止めされているからね。
え。
教えてくれたら処刑を取りやめてもいいって?
だめだよ、何を言っているんだ。
俺は神様の為に死なないといけないんだ。
だから早く殺すんだ、縄を解くな。
そう、そう、物分りがいいよね、流石神父さんだ。
あ。
知らなかったなあ。
え?
いや、神父さんの背中を見るのって初めてだったから。
そんな小さくて、その癖重いものを背負っているだなんて。
同情?
違うよ、俺にはそう見えただけ。
ほぼ狂人とわかっている者の処刑は気が進まないが?
何を言っているんだろう。
俺は占い師だ。
だって神様がそう言ったからね。
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