[うそつき]
「よかった…来てくれた」
人狼対策のための会議が始まってから6日。
ずっと村をまとめあげてきた共有者のオットーが、僕だけに話があると僕を呼び出した。
"秘密基地で待ってる"、と。
村はずれの一番大きな木の根元。
そこに丁度人が2,3人入れる空洞があって、そこを僕らは秘密基地って呼んでた。
オットーはその中で小さく…寒さを堪えるように膝を抱いて座っていた。
僕を見て安心したように笑うオットーの隣に、僕は座った。
「来ないと思ってたの?」
「…もし今のヨアヒムが、人狼が化けた姿だったら…秘密基地のこと、わからないと思ってたんだ」
「やだな、僕は昔からずっと僕だよ」
「…そう、だよね。……うん」
「………オットー…?」
黙り込んだオットーの顔を覗き込む。
そこには、いつもの…「しっかり者のオットー」の顔じゃない、今にも泣き出しそうな…オットーの顔があった。
「…………」
「……僕のしてることは、間違ってるのかな」
「…どうしたの、急に」
「…村の人を毎日毎日処刑して…それでも人狼は一向に退治できなくて……。僕が処刑を決めた人は皆人間で……僕は、…僕はただこの村に平和を取り戻したかっただけなのに…なのに、ヤコブもパメラもレジーナもアルビンも僕が殺し…!!」
「落ち着いてオットー!……皆、多数決で処刑が決まったんだよ。オットーは何も悪くない」
「ううん、レジーナを処刑した日はレジーナとジムゾンが同票だった。僕はそこから独断でレジーナを選んだ!」
「あの判断はよかったんだよ!次の日にジムゾンは狼に食べられて人間だって明らかになったんだから!!」
「でも…!!」
―――赦されない。
そうわかっていたけれど僕は、…オットーを抱きしめた。
「………ヨ…ア…?」
「オットーは…オットーは悪くないんだ、何も…悪いのは…」
悪いのは……狼だ。
そう、耳元で囁く。
「ねえ…オットーは、もう1人の共有者のペーターにまとめ役なんて大役を押し付けるわけにはいかないと思って名乗り出てくれたんだよね?」
「……う…ん」
「それって、凄いことだと思うよ。僕だったら怖くて名乗り出ることもできない」
「………」
「それからオットーは今日までずっと…ずっと頑張ってきてくれた。確かに処刑した人たちは全員人間だったけど…それは僕たち全員が決めて、全員で犯した間違いだ。…オットーだけが悪いなんてことは、絶対にない」
「……ほ…んとう…?」
「本当だよ。…もしオットーがヤコ達を"殺した"って悔やむのなら…僕も村の皆も人殺しだ。オットーだけが罪を背負う必要なんてないよ」
オットーは悪くない。
そう。
何度も何度も…小さい子に言い聞かせるように僕は言葉を選びながら囁く。
「…………ありがとう…ヨアヒム」
やがて。
オットーがぽつりとそう漏らした。
「…大分、楽になったよ」
「そう…?よかっ…」
顔を上げて僕を見上げる、いつもの顔。
少し笑いながらも、でも瞳に真剣さを滲ませて。
「ヨアヒムは、人間だよね?」
僕に、問いかけた。
「――――人間だよ」
僕は、そう答えた。
オットーはよかったって言って、立ち上がった。
もうそろそろ行かなくちゃ…なんて笑って、ぱんっと両手で自分の頬を叩いて深呼吸。
ふう、と息を吐いたときにはもういつものオットーの顔に戻っていた。
「じゃあ、僕はもう戻るね。ヨアヒムも遅れないようにね?」
「うん、わかってる」
オットーの背中が完全に見えなくなった頃、僕は静かに目を閉じた。
「…嘘…だ…」
―――――目を開ける。
頭の中に流れたのはほんの数時間前の記憶。
僕の腕の中でオットーが震える。
僕を見上げるその顔は恐怖に強張っていた。
「ごめんね…オットー」
「あ…ぐっ……」
「僕はさ…、生まれたときから…人狼だから」
首筋に牙を立てる。
甘い血を舌で味わって、口を離す。
床に静かに押し倒して…少しずつ、少しずつその身を食んだ。
「…信じてくれたのに」
「ひぐ…ぁ…」
「一番票が集まっていた僕を処刑から外してくれたのに」
「い…ぁ……ヨ…ア…」
「本当にごめん……大好きだよ、オットー」
「…う…そ……?」
僕は首を横に振る。
「嘘じゃないよ、オットー。愛してる」
だから安心して眠って?
僕の中で。永遠に。
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